コロナの影響でインバウンド旅行客が減少し「せっかく取得したハラール認証がなかなか活かせない」という企業の相談を受けることも少なくありません。

例えば、お土産の商品を扱う企業であれば、お店に置いておくだけで買ってくれたものが、お土産屋さん自体の経営が難しくなり、置き場さえもなくなってしまいかねない状況です。

一方、「インバウンド旅行客」を最初からあてにする事なく、着実にコロナが流行している環境でも、安定してハラールビジネスを行っている会社も存在します。今回は、コロナ後日本でもっとも成長したハラールECショップを経営するSALAM117代表 菅野氏に、ハラールECの考え方、成功のコツを伺ってみました。
ハラールに限った事ではなく、ECそのものを始める企業にも役立つ内容となっています。

マーケットx自社ECの必要性

オンライン販売(EC)と聞くと、難しそう、面倒くさそう、何からやったらいいかわからない、という声をよく頂きます。
でも、実際はECも実店舗販売も、基本的な考え方は同じです。

何を軸にして商売するのか

これが決まっていなければ、店舗でもオンラインショップでも成功することは難しいでしょう。
SALAM117の場合は、「1万人の在日ムスリムが週に1回買ってくれること」を目標にしています。
目標を達成させるためには、毎日、または週に1回はムスリムが食べている商品を集めることになります。
よって、

販売消費品の軸は外国人である彼らが日本でも毎日食べているもの

を主体に集めます。

どこでどんな手段で販売するのか?

メーカーの場合は、自社商品だけで「ムスリムが週1回買ってくれるようになるのか?」という点をまずオンライン販売では検討する必要があります。

答えがYESであれば自社商品だけの独自サイトで問題ありませんし、NO(または当面難しい)であれば、


「週1回ムスリムが買っているサイトで販売・またはテスト販売する」

という事が最初に必要なミッションになります。
EC販売を検討している初期段階で、自社によるEC運営・販売が必ずしも正解とは限らない、という事です。

売れているECショップでのテスト販売が最速

「売れてる場所(店)に売ってもらう」という所から始めるのも理にかなっているといえます。そうすれば、社内リソースは「慣れないEC運営の準備・立上」ではなく、「ハラールオンラインショップで売れているのはどこか?」という調査に使う事ができ、残りの時間を本業にあてることができます。
今すぐに日本国内でハラール商品を販売するためには、25-30万人にも上る在日ムスリムを対象にしたEC販売は最適ではあります。

しかし、在日ムスリムにとって日本企業の商品が必須なのか、という点においては、自社ECを先に始めるより、「すでに毎日ムスリムが買っているECショップ」でテスト販売を始めたほうが、よほど売上データに即決する手法ではないでしょうか。

EC販売のもっとも素晴らしい点は、データが全てオンライン上で記録する事が出来る点です。どの位の訪問者数が居てどのくらい商品が閲覧されたか、購入者はどんなものと一緒に自社商品を買ったのか。マーケティングに重要なデータが店舗よりも簡単に入手できます。

ただし、このメリットを享受するためには、対象となるデータが大量に集まる……。つまり訪問者・購入者が多数いる人気店である必要があります。

月に30-40人しか訪問せず、1-2人しか注文しないようなECサイトからは、マーケティングに役立つ推察を行う事ができません。
まずは、「売れているECショップでのテスト販売」が成功の鍵になります。

売れるハラール店舗 ≠ 日本商品に友好的

売れているハラールECショップに商品をテストでおいてもらおうと決意した後に陥りがちな落とし穴は、「必ずしもショップが受け入れてくれるとは限らない」という所です。

ぼくもハラール商品を持つメーカー時代に経験したことがありますが、日本でハラールショップを経営されている方は、圧倒的に外国籍(在日外国人)が多いのです。
彼らは毎日ムスリム顧客に対して販売しているので、日本企業から見たら「組みたい店舗」なのですが、残念なことにこういった外国籍オーナーのショップは、日本ハラール商品に対してまだ寛容的ではありません。

普段毎日売れているものは輸入食品、つまりムスリムの方々が本国でも食べていたものが殆どで、ムスリムが買ってくれるかどうかまだわからない、日本の新しい商品を置く余裕は無いのです。もうちょっとシンプルに言うと、「ほかのハラールショップで実績が出来てから出直してきてください」というのが彼らの本音です。テストの為に店舗スペースと販売リソースを割くことはできないと。

ぼくがSALAM117を作った理由の1つは、実はここにあります。
外国籍オーナーのハラールショップに断られる前提で行かずに済み、日本企業のハラール商品を気軽にテスト販売できる場を作りたい。

ただし、テスト販売の場をただ提供するだけでは役に立たないので、この半年間、とにかく全国の在日ムスリムを集められるあらゆる工夫を行ってきました。おかげさまで今では、月間2万人近くの在日ムスリムが訪れる実店舗とECショップという組み合わせになりました。

ECこそ試食・試供品のチャンス

在日ムスリムで一定の知名度を獲得できたハラール専門オンラインショップSALAM117の最大の特徴は、「コミュニケーション」にあります。
通常、オンラインショップのコミュニケーションは「お問合せ」フォームまたはメールというものが日本では一般的です。

SALAM117では、ぼくが中国本土のECビジネスをずっと行ってきた経験やムスリム諸国を毎年回って商談してきた経験から、「チャットこそ在日ムスリム・インバウンド旅行者をオンラインで捕まえる鍵」と考え、Whatsapp、Facebook messengerというムスリム圏の2大コミュニケーションツールをECショップに連動させて、リアルタイムにオンライン顧客と対話サポートを行っています。

ほかにもSALAM117には人気となるための秘密の仕掛けが色々あるのですが、このチャットコミュニケーションこそ、ムスリム顧客が求めるものであり、店舗側としてもお付き合いを深めるための真髄だと実感しています。

購入された方へメールを送るよりも、チャットで「こんな新商品が出たので、試してみませんか?」と直接リアルタイムに問いかけたほうが、ダイレクトな反応も受け取れます。

そして月間500-800件の購入者に対して試供品やチラシの同梱を行う事もでき、次回購入時に商品をかごに入れてもらう可能性も増やすことができます。

お土産が不調なこのご時世でも、毎月コンスタントに試供品を確実にムスリムに配りつつ、販売テストまで出来てしまうという仕組みが今すぐにでも実現できる、ということです。

SALAM117ではオンライン・店舗両方でのテスト販売の場を提供しているだけでなく、モスクに毎週金曜日集団礼拝に来られるムスリムに対しての試供品提供サービスやアンケート調査、そしてSALAM117での売れ筋との比較調査データなどの提供も企業の要望に応じて行っています。

HBOにもテスト販売のメニューを紹介していますので、今すぐ何かアクションを起こしたいハラール商品をお持ちの企業は、ぜひHBOにお問合せしてみてください。

展示会やオンライン商談もいいですが、毎日ここ日本でムスリムに販売している場でリアルなデータを取るのも、今だからこそ出来る、そして今すぐ出来る打ち手の一つではないかと思っています。

SALAM117の今の売れ筋はまだ外国の輸入品が多いですが、テスト販売を通じて少しずつ日本ハラール商品の中からも売れ筋・ヒット商品が生まれるお手伝いができたら光栄です。


プロフィール
菅野幸介氏(Islamic Food Consulting代表)

菅野幸介氏のプロフィール画像
菅野氏経歴:日系大手電機メーカーのエンジニア、上場経営コンサルティング会社の中国支社立上げ及び日本企業の海外支社業績Up支援などを経た後、熊本にある通販系高級基礎化粧品のグローバル事業責任者として「熊本に居ながら世界に売る」手法を洗練する中でハラールと出会う。認証取得に立ち会わなかった為、当初のハラール認証に対する印象は「懐疑的」でしかなく、認証団体も詐欺のようなものだと捉えていたが、ハラール市場についての展望と具体的展開手法を認証団体理事と質疑応答する中で、ハラールという市場性を確信し、独立を決意、「日本ハラール商品を海外市場に売る」事に特化したIslamic Food Consultingの代表に就任、現在に至る。
シンガポール・中国・バーレーン・オマーン等のハラール市場バイヤーとの直接取引の他、自身が顧問を務める西千葉モスク1階のハラールショップ「SALAM117」の経営を1か月で劇的改善させ、売上5倍+黒字化達成に導くなど、机上の空論ではない実弾と実績をベースにしたアドバイスは認証取得後の日本企業からも定評がある。