
日本人にもおなじみの韓国インスタントラーメンといえば、辛ラーメン(シンラーメン)を思い浮かべる方も多いだろう。しかし、ハラール市場、とくに東南アジアでは日本人にはあまりなじみの無い韓国中小企業のインスタントラーメンのほうが主流となっている。その理由は何か調べてみた。
ハラールショップ「SALAM117」を取材してみた

HBO編集部は西千葉にあるハラールショップ「SALAM117(サラームいいな)」を訪れ、日々ムスリムの購買動向についてのリアルなデータを見ているインドネシア人の店員に話を伺った。
ラーメン=世界のムスリム食

ハラール食品というと、健康に良さそうで、味気の無い食べ物を想像していたが、SALAM117店員によると実際の売れ筋TOP10のうち、ほぼすべてがジュース・インスタントラーメン・お菓子だという。
ラーメンについてインドネシア人ショップ店員のRahmiさんはこう教えてくれた。
「インドネシアのお客様は、自分の国のブランドINDOMIEやMIE SEDAAPのラーメンをよく購入されますが、実は韓国のサムヤンラーメンの購入率も高いです。サムヤンラーメンはインドネシアやマレーシアでも販売されているため、地元で食べていたお客様も多いからです。当店では農心(ノンシム)の辛ラーメンも取り扱っていますが、サムヤンラーメンのほうが圧倒的に売上が高いです。」
インスタントラーメンの販売価格
SALAM117ショップでの販売価格は、インドネシア製ラーメンが1袋90円(税込)に対し、韓国ラーメンは1袋200円(税込)と2倍以上の開きがある。
売れ行きが良い理由

それにもかかわらず、売れ行きが良いのは、どんな理由があるのだろうか。
Rahmiさんはその理由を日々お客様と接する中から、こう分析している。
「韓国ラーメンというと、東南アジアの方はサムヤンを思い浮かべます。現地のスーパーやコンビニで、色とりどりの韓国語入りのパッケージが現地ラーメンと肩を並べて大量に陳列されているのを、皆覚えているからです。
サムヤンの特徴は、ハラール対応だけではなく、その商品戦略にあると私は思います。辛ラーメンのハラール商品は1種類のみですが(※SALAM117で仕入れている商品)、サムヤンラーメンはここにもオリジナル、2x、シチュー、カレー、カルボ、チーズと6種類もあります。毎回違う味を楽しむ方もいらっしゃいますし、多くの種類の中から自分の好みの味を見つける事に価値を見出す方もいます。
この戦略は、地元のインドネシアやマレーシア企業のラーメン戦略に極めて近いです。スーパーやコンビニで、自社商品が1種類しかなければ占有できる棚が少なくなるので、企業は売上よりも顧客への露出を重視して、たくさんの種類を用意します。これはラーメンに限らず、お菓子やドリンクでも同じです。
価格に関して言うと、インドネシアのラーメンが90円でも、韓国のラーメンは彼らにとって海外製のものですから、2倍くらいの差は許容範囲だと思います。すぐ目の前にある千葉大学のムスリム留学生はお金が無い方も多く、普段はインドネシアのラーメンを買っていかれますが、たまには贅沢したいという時には200円の韓国ラーメンを手に取る方もいます。」
韓流ブームは関係がある?
ハラール市場での韓国ラーメンの成功の裏には、韓流ブームの影響はあるのだろうか。ショップ店員によると、それはあまり大して関連が無いという。
「韓国のコスメや食品は確かにインドネシアやマレーシア、中東でも勢力を伸ばしていますが、それは韓流ブームというよりは、韓国企業が大手企業に限らず中小企業も含めて、ハラール市場に対して照準をしっかり合わせてマーケティングを行っているからだと思います。
これは私の上司(日本人マネージャー、商品選定担当)に聞いた話ですが、マレーシアのハラール展示会で複数の韓国中小企業と商談したとき、日本企業との意識の違いに驚かされたそうです。日本企業はハラール認証を取ればなんとなくすぐに海外で売れると思っているのに対し、韓国企業は、ハラール認証なんて通過点に過ぎない、その先には死に物狂いで販売に関して努力が必要だと当たり前のように考えて、各国で必死にマーケティング活動を行っていると。
私のようなインドネシア人からすれば、ハラール市場といった曖昧な概念は存在しないと思っています。市場はあくまで、国や市・州といったエリアに属するもので、ハラール市場といってもインドネシアとマレーシアでは全く性質が違いますし、インドネシアでもジャカルタとジャワではまた、大きく異なります。その点について韓国企業と日本企業の意識の違いが大きいのではないでしょうか。」
味についての考察
日本人からみて、韓国ラーメンのテイストは日本ラーメンと比べると特殊な部類に入るが、東南アジアのムスリムにとってはどうなのだろうか。
「インドネシアの地元の味付けは、サテ(焼鳥)ソースのような甘辛のものもあり、日本人の味覚に近いものも多いです。唯一の違いは、インドネシアにはサンバルという、日本の柚子胡椒に唐辛子を多くしたようなペーストや、チリソースを何にでもかけるという特徴があることかも知れません。つまり辛いものに対する慣れがインドネシア人には、もともとあるということです。
サムヤンラーメンや辛ラーメンのような日本人が激辛と呼ぶ部類の食品も、インドネシアのチリ好きの人々には普通に受け入れられます。現地に行くと日本ラーメン(しょうゆ味や鶏スープ)に、サンバルやチリソースをたくさん入れて食べている地元インドネシア人をどこでも見かける事ができます。
当店でも以前日本の棒ラーメン(しょうゆ・塩・鶏スープ)を取り扱っていましたが、味がよくわからない、と購入したことのあるお客様から言われた事があります。日本の味付けはマイルドすぎて、インドネシア人にとっては特徴が無いように思えるのではないかと思います。
また、価格に関しても1食200円という価格は、在日ムスリムにとっても試してみる上で、ぎりぎり許容範囲のラインだと思います。当店にもいろいろ日本商品がおいていますが、試してみたいけど単価が高くて・・と棚に戻すお客様も多いです。
その点、マレーシア等の商品は容量を少なくして商品単価を安く見せるなど、マーケティングがうまいと感じます。クッキー等も100円程度におさまる容量にして日本で販売しています。」
日本ハラール食品に未来はあるか?

日本でも近年ハラール認証食品が増えているが、ムスリムから見た日本ハラール食品の展望はどのような未来が考えられるだろうか。
「もしも日本企業がムスリム向けに商品を販売するのであれば、ハラール認証取得前後で、味に関するテストが必要だと思います。サムヤンの成功の背景には、ムスリム達の辛さに対する親和度があります。これはインドネシアやマレーシアのムスリムだけでなく、アフリカや中東の方でも当店を訪れるお客様では、同じです。
おかきやスナックといった商品であっても、ムスリムはスパイシーなものを好みます。ここでも、中国や台湾、韓国といったスパイシースナックに対するセンスが先行する国の商品がハラールの国々では人気です。日本企業のスナックは、日本米使用など、材料へのこだわりをPRするものが多いですが、味に関してムスリム向けに真剣に考えられたものはまだ殆どみたことがありません。この点も十分に競合国に追いつくスペースが残っています。
また、毎日当店で買い物をされるムスリムの方を見ていて思うのは、彼らはお金を持っていないわけではありません。生きるために必須の米やスパイス、肉といった食品だけでなく、手ごろな価格の嗜好商品……、ゼリーやドリンク、クッキーなどは彼らはいつも買っていきます。
日本のハラール食品も、100円前後に合わせたパッケージで毎日たくさん売れるものがここにも一杯あります。北海道牛乳や、こんにゃくゼリーなどはその良い例です。
ムスリム顧客は、決して日本企業の製品に対して値下げを要求しているわけではありません。ただ、買いやすい価格でパッケージを作って欲しい、そう考えているだけだと思います。買いやすい価格とは、100円―200円の、日本のスーパーで子供が手に取るような、レジ前においてあるお菓子の感覚と同じだと思います。」



