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日本:海外ハラール経験者が語る、「ハラール相互認証」という幻 (No.1)

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写真:2019年6月、北京にて中国政府に日本ハラール市場の現状と展望について
レクチャーを行うIslamic Food Consulting代表 菅野氏。
日本ハラール製品の海外販路開拓だけでなく、中国やインドネシア等
各国から日本ハラール市場への参入のレクチャーも依頼され世界を飛び回っている。

本記事は、2020年4月20日にハラール市場での実際の販売や販路開拓に携わるIslamic Food Consulting代表 菅野氏(以下IFC)への取材を行い、HBO編集部によく寄せられる質問について答えて頂いたものを整理した。

インドネシアBJPJHについて

HBO:今回は、HBO編集部に寄せられる質問・問合せでも比較的多い「インドネシアBPJPHとの相互認証」についてお聞きしたいと思います。

IFC:(少し驚いた表情)そんなに質問多いのですか。

HBO:寄せられる質問の3割位が、この話題だと思います。まず、インドネシアのハラール認証団体BPJPHについてですが。

IFC:2019年10月にMUIからの業務を引き継ぎ、インドネシア公式のハラール団体としての活動を行うというアナウンスがありました。この点については公式アナウンスですので、事実です。ただ、日本の多くの方が勘違いしているのではないかと思うのは、「BJPJHが発足したらすぐに日本企業にとって何かプラスになるのではないか」ということについてです。

HBO:そのような期待を込めて編集部にも問合せを送られる企業が多いと思うのですが、実際は違うのでしょうか。

IFC:そもそもBPJPHの発足理由について知る必要があるのでは、と思っています。全てのロードマップがインドネシアから公表されていない以上、インドネシア政府の思惑を完全に理解する事は不可能ですが、少なくとも存在する情報や関係者からの動向を見れば、BPJPHが当面何を目的にしているのか、について日本企業でも理解できると思います。

HBO:概要で良いので、その目的について説明頂けませんか。

IFC:インドネシアは東南アジア最大級のムスリム人口を抱えていながら、いままでハラール認証というビジネスにおいては、隣国マレーシアに長年遅れをとってきました。政府主体でハラール認証のシステムを構築しているマレーシアと比べ、国内でのハラール認証の普及も進まず、また近年ではMUI(今までのインドネシアのハラール認証団体)による賄賂・不正認証などの多くの問題も報道されてきました。海外からの印象面でも、実際のハラール認証ビジネスの面でも、インドネシアは確実にマレーシアの後手でした。

そこでインドネシアは政府主体のBPJPHにシフトし、以前のイメージを払拭し、マレーシアに対抗しうるハラール認証ビジネスを行おうと画策しています。

ただし、インドネシア政府が見ているのは単なる「ハラール認証費用」という政府収入ではありません。

インドネシアは、世界最大級の「ムスリムツーリズム対象国」へと変化しようとしています。これは2018年末くらいからインドネシア国内で声が大きくなっており、ハラール観光需要を増大させる目論見です。これは、2019年末に発表されたグローバルイスラム経済インデックスのムスリム旅行分野ランキングを見ても明らかです。インドネシアはTop10に入っています。余談ですが、このランキングのハラール食品部門ではインドネシアは10位以内にさえ入っていません。

HBO:つまりBPJPHは、「過去のイメージの払拭(政府主導化)」、「インドネシア・ハラールインバウンド旅行事業の拡充」という目的が大きいと。

IFC:簡潔に言うと、その通りです。ただ、なぜBPJPHの設立がハラールインバウンド旅行を拡大させる事になるか、という点は日本人には理解しづらいのではないか、と思いますのでそこを補足します。

インドネシアのインバウンド戦略

IFC: もともと、インドネシアはムスリムが多いにも関わらず、インドネシア国内企業のハラール認証取得、商品へのハラールマークの貼付は実はそれほど多くなかったんです。

理由の1つとしては、「ムスリムが多い国」だから、その殆どが「ハラール準拠で製造されているだろう」という、なんとなくの暗黙の了解が国内ではあったと思います。ただ実際には、ジャカルタにも華僑は1割居て豚肉を提供する店もありますし、日本商品を売るスーパーもあったりしますので、上記の「インドネシア国内はだいたいハラール商品」という前提は最初から崩れています。

政府はこの状況について、「ムスリム主体国だから海外のムスリムの皆さん、安心してインドネシアに旅行に来て下さい」と気軽に言えない事にここ数年気づき始めた、というのが本音じゃないかと思っています。そして長年存在していたMUI内部の闇(不正認証や賄賂問題)という国際的イメージを刷新するため、政府主体のBPJPHに切替えて新しい「ムスリム・ハラールのインドネシア」のイメージを打ち立てた。

HBO:インドネシアはムスリム国だから、ほとんどの商品にハラールマークが貼られているのでは、と勝手に思っていたのですが、違うのですね。

IFC:もちろん現地のコンビニやスーパーに行けば、現地の大手企業や国際的大企業商品には当然ハラールマークが貼られています。ただ、インドネシアにも無数の中小企業があり、その中小企業の商品にはあまり貼られていません。中小企業からしたら「いままでハラールマーク無しでも売れてるのに、なぜわざわざコストかけてハラール認証取る必要があるのだ」という感じだと思います。実際、現地の企業と話してそう言われました。そして、インドネシアのマーケット・店舗にはこういった中小企業の商品が多く並べられています。

ムスリム国だと思って訪れたインドネシアで、ムスリム旅行者は「あれ?この商品って本当にハラールなのかな?」という心配がたびたび起こっている、というのがインドネシアの現状です。

HBO:でもBPJPH・・というかインドネシア政府は、「インドネシア国内企業のハラール認証取得を政府として全面的にバックアップ・推奨する」と宣言していますよね。

IFC: はい、これが今回の話題の鍵となる、BPJPHの当面の「ミッション」です。インドネシア政府はムスリム国の威信をかけて、世界に向けて「クリーンなハラール認証とムスリムツーリズムに適した国」をアピールしようとしています。

<No.2に続く>

No.2: BPJPHの当面のミッション:国内ハラール認証拡大
No.3: BPJPHの相互認証を取得すれば、インドネシアで売れるのか?

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