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エジプト:数億円規模の輸入ハラール肉認証ビジネスの独占(下)

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<前半のあらすじ>
輸入肉にすべてハラール認証が必要なエジプトにおいて、世界各国の認証団体にライセンスを供与していた所が2019年末突然、新しく認可されたIS EG Halal Certified社を除くアメリカ国内全ハラール認証団体の資格をエジプト農業省が突然取消した。さらに2019年10月には、エジプトが輸入する食肉主要産地である南米においても、エジプト農業省がIS EG Halal Certifiedに独占権を与えた事で、各国の輸出コストが跳ね上がっている。

問題解決を拒否するエジプト政府の姿勢は、認定を棄却された企業側にも波紋を呼んでいる。棄却を受けた会社の幹部によると、突然の資格取り消しについて説明を受けた者は誰もいないと言う。

同社は、非公開である新規制にどうやって対応すべきか理解したいと思い IS EG社に直接連絡を取ろうとした。最初に電話で話した時にはIS EG社の秘書が返事を約束したが、その後は電話やメールに一切応じなくなったという。

IS EG社は2017年にアメリカニュージャージー州で法人化したが、2019年以前にハラール認証に携わっていた事は無い。同社の法人化と時を同じくして、2017年にはブラジル牛の輸出危機が生じている。安全基準に満たない食肉の流通を招いた汚職疑惑が広まり、世界中でいくつもの国がブラジルからの輸入を禁止した。

IS EG社の創立者はアメリカ移民エジプト人のWael Hana氏とアメリカ人弁護士Antranig Aslanian氏である。Antranig Aslanian氏は、エジプト政府が敗訴したニュージャージー州イーストラザフォードの外交棟改修に関する2016年の訴訟で、エジプト政府を代表した弁護士である。

IS EG社のウェブサイトは4月22日、エジプト政府が同社に認証団体としての認可を決定する数日前に開設されている。そこには「IS EG社は南北アメリカからエジプト・中東へ輸出するハラール製品の認証を行う、エジプト政府認可の唯一の機関」と書いてあるものの、その他の情報はほとんど掲載がない。

ウェブサイトに掲載されている電話番号はLoundes Expressという運送会社が登録しているものである。Loundes Expressは2015年にWael Hanna氏が設立した会社で、トラックを一台しか所有していないにもかかわらず、年間およそ3,000万ドル(約33億円)の収益を上げている。会社の住所はIS EG社およびAntranig Aslanian氏の住所と同じものだ。

IS EG社はエジプト政府認可で唯一のハラール認証団体となってわずか数週間後に弁護士を変更している。新しく雇われたのは数々の懲戒処分歴があり何度も停職にも至っているHoward M. Dorian氏となっている。

Howard M. Dorian氏は2019年5月、Medi Trade社という別のエジプト系食品輸入企業がニュージャージー州に支店を開設するための支援を行なっている。同社ディレクターにはLoundes Express 社のWael Hana氏が名を連ねており、住所はIS EG社・Loundes Express社・Antranig Aslanian氏の弁護士事務所の住所と合致する。

Medi Trade社について公開された情報は少なく、エジプト市場で大規模な事業展開を行っているにも関わらず、ウェブサイトも存在しない。しかし同社幹部による発言は、同社が国有企業であることを示唆している。

Medi Trade社の元会長であるAhmed Refaat少将は、2015年に行われたタハヒール紙でのインタビューで、同社は実際には子会社グループで構成されており、1979年創立だと述べている。さらに同社は油脂や砂糖など戦略的食料品をエジプト供給省に供給する専門企業であるとも述べている。

Medi Trade社と定期的な取引を行っている輸入業者2社によると、同社は「ソブリン・エンティティー」と関係があるという。また別の情報筋によれば、この関係性は取引業者や輸入業者の間では広く知られたものだという。

同社は2015年後半に大統領が食品価格の引き下げに取り組むよう指示した5つの団体のひとつであったという。その他の機関は国軍・El-Masryeen社・農業供給省などである。

Medi Trade社は、2016年11月に政府が鶏肉の関税を免除したことで再び脚光を浴びた。当然鶏肉の大規模な出荷がその後に続いたが、アレクサンドラ港湾庁の幹部によると、そのほとんどはMedi Trade社によるものだった。

関係者筋によると、ハラール肉証明書はMedi Trade社によってエジプトの輸入業者にだけ渡されるという。

食肉輸入業者のSherif Ashour氏は、IS EG社がMedi Trade社をハラール認証の総代理店にし、IS EG社がMedi Trade社に証明書を渡すよう指示しない限り製品を出荷することができないようにしたため、事業の妨げになっているという。別の大手食肉輸入業者もこの点を認め、ハラール証明書はこれまではその他の出荷書類に同封されていたが、今後はMedi Trade社のカイロ支店でのみ渡されるようになったとアレクサンドリア商工会議所から輸入業者に通達したと語った。

この件に関してMedi Trade社はコメントしていない。

アメリカなどの食肉輸出国は、独占的なハラール肉認証団体1社にのみライセンスを与えるとしたエジプトの決定を非難した。ブラジルの農務大臣がこの件に関して話し合うためにエジプトを訪問した際、認証を一社のみに限定したことでブラジルのおよそ20件の食肉処理場に損害を与えたという。

2019年10月にはコロンビアとパラグアイもこの決定を批判し、新しい企業とは取引しないことを正式に発表した。パラグアイ最大の牛肉輸出業者のうちの一社であるFrigorifico Concepcion社も、カイロにあるパラグアイ大使館に正式に不服申し立てを行った。

カイロに拠点を置くAl Borsa 紙への2019年10月インタビューによると、IS EG社の専務取締役であるGamila Maali氏は認証料金を引き上げたことやエジプトの輸入肉価格が急騰したことを否定し、誰かが個人的な利益のために不正確なニュースを広めたと主張した。Gamila Maali氏は以下のようにコメントしている。

「IS EG社の認証料金は証明書の発行自体に課金するものではなく、食肉処理業者や食肉処理場の監督者に対する賃金など、輸入肉がイスラム法に準拠したものであることを保証するために輸入業者に提供するサービスに対して支払われるものだ。食肉処理業者や監督者の人数、処理場の稼働時間などによって、出荷毎に費用が異なる。IS EG社は約150人の監督者を雇用しており南米にある三社と契約を結んで1,200人のムスリム食肉処理業者を提供している。ハラール証明書の発行プロセスを世界的に統一することを目指している。」

しかしGamila Maali氏の発言には、批判を鎮静化させる効果は皆無であった。

政府の決定に関して、Egyptian Competition Authorityはおびただしい数の苦情を受けたと監査機関の幹部が語った。同幹部によると、こうした苦情に関する調査は秘密裏に行われている。

2019年10月、議会の農業委員会はこうした疑わしい企業にハラール証明書発行の独占権を与えた理由について調査するための説明要求を提出したとRaef Temraz委員長はコメントしている。

エジプト畜産組合(Egyptian Veterinary Syndicate)の食品安全委員会の委員長であるShereen Zaky氏は2019年10月、この決定をめぐる汚職を示唆する文書を含む報告書を検事総長に提出した。

Shereen Zaky氏は、同報告書にはウルグアイの食肉処理場に対して2019年7月28日付で発行されたハラール証明書に関する件が含まれていると語った。この日付はIS EG社が南米で営業を開始した10月よりも数ヶ月も前のものであり、さらに同社が現地に姿を現した8月よりも前のものである。

今年の食肉価格や輸入水準が昨年と変わらないと仮定して計算した場合、IS EG社の市場独占により北米で年間1,100万ドル(約12億円)南米で年間1,000万ドル(約11億円)を超える料金が徴収できることになる。

ある食肉輸入業者は、政府はこうした利益のすべてをハラール認証団体が得ることは望んでおらず、政府はこの資金を「国家にとって役立つもの」と考えていると話した。

< Sigamp’s Eye >
編集者解説:エジプト政府がいかに黒いか、という点ではなく、今回注目すべきは「いかにハラールのビジネスがお金を生み出す市場か」という点である。エジプト政府は、国を挙げてこのビジネスから「国家にとって役立つ資金」を徴収しようと目論むほどである。もう一つ注目すべきは、エジプト1国のみでこれだけの認証費用が南北アメリカから徴収できるほど市場があるという事である。価格では勝てなくても、クオリティで日本製を望む国や市場はまだまだ沢山ある事は疑いようのない事実で、早く動いた日本企業からその恩恵に預かることができる。

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