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【UAE】食料安全保障を強化 その取り組みとは?

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垂直農法システムを利用して栽培される野菜
写真:Shutterstock Aisyaqilumaranas

Abdulaziz Al Mulla氏は、以前の勤務先であるコンサルティング会社マッキンゼーで地方政府と様々な国家的危機管理問題に取り組むうちに、食料安全保障に関心を抱くようになった。そこで打ち出された食料安全保障の強化。
具体的にどんな取り組みを行っているのか見てみよう。

コンテナを利用した室内農場

UAEアブダビ首長国の閑静な計画都市。
風車やその他最先端技術とアースカラーのアラビア建築が融合するMasdar City付近に、コンテナスタイルの建物群がある。

これらはUAEに拠点を置くクウェートの企業家、Abdulaziz Al Mulla氏らによって共同設立されたMadar Farms社のコンテナである。

あるプロジェクトで食料や水の問題が地域にもたらす国家安全保障上の脅威について知り、その後マッキンゼーを去った。
これらの問題について取り組みたいと考えた彼は、古いコンテナを購入し、地域の食料生産を高める手段として室内農場に改造した。

そして現在、赤色・青色LED照明の下、ビルの階層のように何段にも積み重なったトレーの中で、土を使わずにレタス・バジル・ケール・その他葉野菜などが栽培されている。

「数字を見て驚いたのだが、アラビア湾では耕作に適した土地は全体の5%にも満たないにもかかわらず、この乾燥気候地帯では80%以上の水が農業に利用されている。このままのペースで行けば、50年以内にこの地の天然資源のほとんどを使い果たしてしまう。そのことに納得が行かず、他に良い方法があるはずだと考えた。このプロジェクトの一週間後、会社を辞めMadar Farms社を立ち上げた。」
とAbdulaziz Al Mulla氏は言う。

垂直農法を試みる

垂直農法として知られる室内農業の手法は、世界各地で人気を集めている。
ビジネスコンサルティング企業のGrand View Research, Inc.は、室内農業の世界市場は2025年までに99.6億US ドル(約1.9兆円)に達すると予測しているが、中東ではまだ生まれたばかりのコンセプトである。Madar Farms社の例は、同地域での持続可能な農業の実現を目的としたその他の多くのイノベーションに加え、世界的な食料不足解消のためUAEが取組む新たな試みの始まりに過ぎない。

農業技術研究開に投資

UAEでは現在食料不足は無いが、厳しい気候と限られた水や耕地のために農業の機会は乏しく、食品の80%以上を輸入に頼っている。
気候変動や世界的な政情不安にさらされ食料生産をめぐる不確実性が高まっていることを背景に、この中東国は自国の食料生産を拡大しようとしている。

2018年11月、UAE食料安全保障大臣Mariam Al Mheiri氏は、強靭な農業の実践を目指し生産性及び生産量を高める国家食料安全保障戦略を打ち出した。
これは主に農業技術研究開発への投資を増やし農業ビジネスを支えるマーケットを促進することなどを内容としたものである。

United Arab Emirates Universityの食品栄養学研究者、Hina Kamal氏によると、室内外の自家栽培作物の生産を高めるための農業技術利用促進に多くの関心が寄せられていると言う。
Hina Kamal氏はUAEの気候にもっとも適した作物は何かについて研究を行っている。

Madar Farms社はこれにいち早く投資した企業のひとつではあるが、この流行を捉えた企業は他にもある。
従来型の屋外農業を営む企業を含め、ますます多くの企業が同様の機会に関心を持っている。

例えば石油資源が豊富なUAEの首都アブダビや、別の首長国であるラスアルハイマにある果樹園などでは、農業地帯地図を作成するためのドローン利用テストや実施が既に始まっており、上空から見た農園全体の概観から個々の果樹の詳細な様子までを映し出した映像を農家や農業研究者に提供している。

Dibba Al Fujairah市の環境保全及び自然保護責任者であるFatima Al Hantoubi氏によると、ラスアルハイマのいくつかの有機農場では、種の選別を改善し、特定の土壌における特定の作物に必要な肥料量を決定して病気の初期病徴を検出するために、センサーやAIの活用が始まっていると言う。

一方Khor Fakkan地方では気候変動環境省がペルシャ湾に人工漁礁を設置している。
水産資源を増やし持続可能な養殖を促進することで、食料安全保障にさらに貢献することが期待される。

Fatima Al Hantoubi氏によると、人工漁礁は環境に優しい素材で作られ、クレーンを使って海岸沿いに設置された。

同構想では、この地域の自然の海洋生態系の修復を支援し、海洋生物多様性に関する調査や研究を促進するために、9,100平方フィート(約845平方メートル)を超えるサンゴ礁を海岸沿いに設置することも計画されており、この事業は結果として水産資源増殖にもつながる。

食品廃棄物問題への取り組み

Abdulaziz Al Mulla氏らが農業技術を利用して食料安全保障を強化する一方で、食品に関するUAEの自立を支援する取り組みは他にも行われている。

例えば食品廃棄物問題への取り組みである。
UAE居住者一人当たりの食品廃棄量は、平均すると年間434ポンド (約197キログラム)であると推定される。このうち30%以上がレストランで廃棄されており、さらに家庭や企業での祝い事の残り物として30%が廃棄されている。

UAEの気候変動環境省が取組む最新プロジェクトのひとつとして、特にホテルやレストランの厨房における食品廃棄物の流れを追跡し、これを最小化する方法について厨房内で探ることができるAIの利用を奨励している。

EmaarやMajid Al Futtaimといった大手ホテルグループを含む100件以上の国内の大手厨房が、既に食品廃棄物を減らすためにAIを利用している。
食品廃棄物追跡ソフトウェア開発者であるHuzaifa Waheed氏は、この技術が有効な理由として、企業が大幅なコスト削減というインセンティブがあるからだという。政府の持続可能性に関する目標を達成することにもつながり、ウィンウィンの状況を作り出すものでもある。

UAE政府が立ち上げ、食品技術企業Winnow社が開発したコンピュータ画像認識ベースのこの製品は、厨房のゴミ箱に置かれたカメラで食品が廃棄される前後の画像を撮影し分類アルゴリズムを実行して、廃棄された食品とその重量・コストを特定する。
そこで得られた情報を用いれば、こぼれや調理技術上の問題など、食品廃棄物の具体的な発生源を特定し対処することができる。

このAIプログラムは概念実証プロジェクトとして2018年に始まった。
政府はこのプログラムを通し、UAE高級サービス業界に対して、データに基づき正しい決定を行うことで、2019年には200万食、2020年には300万食相当の廃棄食品を減らすよう働き掛けている。
ドバイ市やエティハド航空、ヒルトンホテルなど、UAEの重要な公的機関や民間企業が既にこのプログラムの導入を約束している。

持続可能な戦略がカギを握る

200以上の国籍の人々を擁し、栽培に広大な熱帯の土地を必要とする米などの主食の一人当たり消費量が多いUAEがいまだ取り組めていないのは、世界中の食文化の舌の肥えた人々の要望に応える方法だ。

政府機関・研究機関・企業などが、調査・技術・人材その他様々な面で協力して取り組む必要がある。

「対象とする主食に焦点を当て、近代的な農業技術のための農業研究開発への継続的な投資を通じて農業分野効率を高めることにより、地元生産量を増やすことを重視しないといけない」とHina Kamal氏は言う。

つまりもっとも効率よく自給するためには、UAEはどんな食料を、どのようにすれば競争力のある価格で育てられるのかについて、正確に把握する必要がある。

Hina Kamal氏によると、より総合的な食料安全保障が、UAEがこの目標に向かって進むことができる唯一の道であると言う。

「少なくとも、持続可能ではない方法で研究開発を行う事は現実的ではないため、達成年度を最重要目標に設定するのはやめたほうがいい」とHina Kamal氏は語る。

総合的に見ると、UAEによる自国の食料依存問題への取り組みが地域の食料安全保障を強化し、経済を多様化することができるとしても、その戦略が成功するかどうかは、多くの課題に対していかに持続可能な方法で取り組むかにかかっている。


< Sigamp’s Eye >
編集者解説:「もったいない」という概念が常識である日本とは正反対に、外国では食べ残す事や食べ残しを捨てる事が平気な国が多数ある。その一方でその国の食糧自給率は半分以下であったりするのだが、たいていそういう国は中東などの石油で裕福な国である。UAEのような石油マネーで裕福になってきた国々が、自給率に対して危機感を本当に持って取り組むかは別としても、ここに日本企業のITや農業技術を活用するチャンスはある。中東やインドの農業技術系展示会は、今でも日本企業を求めるバイヤーで溢れかえっている。

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