外観・見た目というものは大切である。
それは、他者が自分のことをどう受け止めるか、そして自分に対する意識にも影響する。10年前Modanisaというモデストファッション(ムスリムのためのモダンファッション)の黎明期には、ヒジャブをつけておしゃれをするなど考えられず、西洋メディアの報道の中でムスリム女性の良いイメージが書かれた記事やニュースを見つけることもほぼ皆無だった。
当時モデストファッションが億単位規模の市場になると主張する人がいたとしても、おそらく全く信用されなかっただろう。
モデストファッション流行の歴史
2019年、ファッショナブルなムスリム女性が今までに無い位注目を集めた。背景には、自分たちのストーリー表現を今までのように渇望するだけでなく自分たちで積極的に作っていこうとする、女性たちの意識の変化・向上がある。
2019年1月には、Ilhan Omar氏とRashida Tlaib氏が議員に選出された。夏にはヒジャブをつけた若い競馬騎手がMagnolia Cupで優勝した。
ファッションの中心地では、Halima Adenを先頭にモデストファッションのモデルたちがキャットウォークを歩き雑誌の表紙を飾った。
それぞれ異なる背景を持ちながらも、彼女たちの華々しい登場は連鎖反応的に過去のステレオタイプを打破している。
また、中東全体でも劇的な社会変化が起きている。
サウジアラビアの女性たちに自由が増え、UAE女性企業家は国家の支援を受けている。
女性たちは自信をつけ、雇用主・納税者・パイオニアリーダーとして自分たちの社会的立場を再定義している。
彼女たちは情報を持ち、声を持つ消費者であり、自分たちの価値観と選択に基づいて生活している。
モデストファッションの流行はこの傾向と並行している。ここ10年弱で、モデストファッションは2,830億ドル(約31兆円)規模の産業に急成長した。
流行までの厳しい道のり
Modanisa.comのストーリーは、この驚くべき社会的・経済的変貌を映し出す鏡となっている。
2011年にビジネスを開始した頃は、敬虔なムスリムのための選択肢は限られていたので、たとえ55才の母親であろうが25才の娘であろうがほぼ同じ格好をしなければならなかった。
約4億ドル(約438億円)の市場と推定されていたにも関わらず、アパレルブランドは彼女たちを無視した。
年配の女性たちはこの状況を静かに受け入れていたが、現代の新しいM世代たちはこのような社会に囲い込まれるつもりは全くない。
もちろん注意点も存在するが、現在のお互いに繋がりあうムスリムは、自分たちの信仰を障害ではなく名誉の印と見ている。彼女は現代生活に参加し、新たな冒険を経験し、充実したキャリアを楽しみ、スポーツをし、海辺で休暇を取りたいと望んでいる。彼女たちは強まる自信と社交性を反映してより多様なファッションを求めている。
ビジネスとしてModanisaは2つの使命を持つ。アパレル業界に存在した大きなギャップを埋めること、そして消費者に彼女たちのアイデンティティー・価値観・個人的な趣味を表現する力を与えることである。消費者を理解して、彼女たちの変化するニーズに対応するというのがModanisaの使命である。例えば、顧客の多くが初めて仕事に就いており、モデストな基準を守りながらも職場環境で快適かつ自信を持って動けるような洋服の選択肢を必要としている。選択肢の1つとしてモデストファッションをつけ加えている他のファッションブランドとは違い、Modanisaは、衣服デザインとセレクション元々の意図からしてモデストである。
豊富な生地生産地であるトルコを拠点としながら、大きな経済的可能性があることを製造業者に理解してもらうのに当初は苦労していた。
そこでModanisaは自分たちのエコシステムを作り、自社ブランドを設立し数少ない女性デザイナーや工場と緊密に協力した。
この小さなブランドはやがて5年もたたないうちにグローバルに成長した。
現在Modanisa.comは135ヵ国の顧客にサービスを提供しており、様々なカラー・生地・サイズを揃えたシャツ・ヘッドスカーフ・ブルキニ・ウェディングドレスなどをラインナップしている。
850名のデザイナーとサプライヤーが生産しており、このうち90%が女性が経営する中小規模のビジネスで、Modanisaを通して国際市場にアクセスすることができている。
女性の自立を加速させた
Modanisaの従業員同様、サプライチェーンの数千名のスタッフのほとんども女性であり、その事はトルコで経済的に自立した女性の数を増加させる助けになっている。
ブランドアンバサダーの個人資産も増加している。
先駆け的となっている関連インフルエンサーも数千万円規模の収入を得ており、多くの場合彼女たちが家族の大黒柱になることを可能にしている。
女性管理職に関して言えば、Modanisaはトルコだけではなく西洋の基準も超えている。
幹部レベルの60%、部長の80%が女性である。
2017 Business of Fashionレポートによると、大手ファッション業界では女性がデザインを手がける大手女性ブランドは50%以下に過ぎず、女性管理職がいるブランドはたったの14%だという。
テクノロジーの普及に貢献
低所得層にテクノロジーの普及を広めることも、Modanisaの成功にとって重要な点だった。
初期にはトルコの顧客がEコマースを利用できるように、代引きと送料無料サービスを提供して、オンラインで注文がしやすいように導いた。
スマホの普及と、より若くITに精通した顧客が増えるにつれ、Modanisaへのアクセス数は急増し、2019年には2億PVを達成した。
ネット型ベンチャーであるため、Modanisaのビジネスは多数の従来型企業より成長が速いことが予想できた。
Modanisaはトルコ語・アラビア語・英語・フランス語・ドイツ語を用意している。世界中の顧客にすぐ届き、何が、どこで、どのように求められているかを特定できるため、SNSを重視している。
Modanisaがトルコの輸出トップ企業で他社の模範となる大きな理由がここにある。
モデストファッション課題の今後の課題
モデストファッションの流行には課題もある。
世界の主要アパレルブランドや小売店もこのムスリムブームに注目し始めている。Modanisaは現在モデスト市場の約10%のシェアを持ち、ここ数年で50%まで拡大を目論んでいる。
同時に、大手アパレルブランドもこの豊かなブルーオーシャン市場から大きな収入を得たいと考えるのも無理もない。
ハラール経済に組み込まれているModanisaのようなブランドは、多様なムスリム消費者のニーズや感性を理解しているという点で競合他社より有利である。
例えばトルコやマレーシアでは、伝統的な服装規定が購入判断を決定づける。
これはヨーロッパやアメリカで求められる都会的なスタイルとは異なる。
しかし、Modanisaとしても甘んじているわけにはいかない。
努力を続け大手競合の参入に備えてエコシステムを強化しなければならない。
デザイン・配達・マーケティング・アフターケアに至るまで大手競合他社と同レベルのサービスを提供し、引き続き魅力的で価格が手ごろなアパレルを提供していく必要がある。
また、エシカル(倫理的)及び持続可能なファッションについての新たな期待にも答えていく必要がある。
イスラム世界はここでも、廃棄物に関するコーランのルールと現代ビジネスを組み合わせてより環境に良いビジネスを運営することで、ポジティブな役割を果たしていけるだろう。
モデストファッションがムスリム女性に大きく影響していることは疑いようがない。この分野が成熟していくにつれて、その変化をもたらす力はますます良い方向に社会を変えていくだろう。
< Sigamp’s Eye >
編集者解説:昨年日本でも六本木で行われたフォーラムでイギリスのモデストファッション企業のCEO女性が講演されていたように、日本においても少しずつムスリム女性のための最新ファッションについて知る機会が増えてきた。最近ではユニクロやNIKEが中東市場でムスリム向けのモデストファッションを販売し始めた事も記憶に新しい。日本のアパレルメーカーには技術と品質という大きなアドバンテージがあり、実は一番ハラールビジネスで参入に適しているジャンルの1つかも知れない。