「イスラム観光・ハラルツーリズム」という言葉は、ムスリム達ががイスラム圏とは違う環境の国で、ハラル対応ホテル・ハラル交通・ハラルレストラン・イスラム航空・イスラム金融(無利子金融)を利用したり、宗教活動を行ったりできる場所へ旅をすることを意味する。

ハラル対応ホテルとは、祈祷の場・キブラ(お祈りをするための方角)とハラル食品があり、アルコールが禁止されており、男女が分離されている施設で、部屋にはコーラン・礼拝用マット・天井にはキブラの方向を示すマークが付いているホテルのことを指す。

このようなホテルは、「シャリア法準拠」として記載されることもあり、サウジアラビア・北アフリカ・インドネシア・マレーシア等に存在するホテルのシステム。

ムスリムにとって、自国外での食べ物は常に心配事であるため、ハラル食品はイスラム観光・ハラルツーリズムの最も重要な要素のひとつである。多くの国の政府が宗教問題に対して消極的な対応を見せているため、自国に訪れてくれる海外からのムスリム消費者を保護する法律は存在していない。ハラルフードはムスリムが経営する店に限定されており、所有者がサプライヤーも兼ねているため事態がより複雑化している。

ハラル交通はムスリムにハラルフードを提供できる航空会社や鉄道のことを指す。(乗り物自体がイスラム宗教の先生によって神秘的な祈祷をしてもらって認証されている、とかそういった幻想的な概念ではない。)

なぜ世界はムスリムに関心を向けているのか。

ムスリム消費者の市場規模、成長率、富裕層の数どれをとってみても、ビジネス的興味を引く要素が詰まっている。世界のムスリム人口は2010年には16億人、2050年には世界人口の約30%を占める28億人になると予想されている。

ムスリムの60%以上がアジア太平洋地域に住んでおり、20%が中東と北アフリカ(居住者の93%)、3%がヨーロッパに、そして1%が北アメリカに住んでいる。

World Travel and Tourism Councilによると、ムスリム旅行者は2018年には2,380億ドル(約25.6兆円)を消費し、多くの国々の観光当局が、飲食施設のガイド・礼拝場所・ハラル対応ホテルの用意など、ムスリム向け対応に目を向けはじめた。

ブルガリアのソフィアには1,606か所のモスクと1,700店舗のハラルレストランがある(Bixabai)

多くの国々が、ツアーガイドの提供・空港・鉄道駅・観光地内礼拝所など、ハラル市場に関する専門アドバイスを提供する、イスラム協会運営のハラル計画を取り入れようとしている。また、多くの航空会社でもハラル対応メニューを提供している。

2014年には世界で最も多忙な空港の1つといわれるロンドンのヒースロー空港に、ハラル・キッチンがオープンした。日本、韓国や香港の観光地でもハラルレストランのガイドが提供されている。タイの観光当局は去年、ムスリムのための特別対策を発表した。

マレーシアにおいては、世界に広く知られるイスラム観光地として、イスラム観光を含むハラル商品とサービスの世界的中心地である。

ムスリムフレンドリー観光地

100%ハラルを守っているヨーロッパ国家は存在しないものの、多くの国はムスリム観光地としての特徴をPRしようと努めている。

インドネシアのホテルは「ムスリムフレンドリー」をアピールし、ショッピングセンターには礼拝所やハラルレストランが用意されている。同国には60万のモスクがある。

スーフィ(神秘主義的イスラム教徒)に人気のウズベキスタンには、160以上のイスラムの古代遺跡がある。

シンガポールにもムスリムが多く、ムスリム向けのインフラ・設備・サービスも整い、(食肉も)ハラルルールでの屠殺を守っているため大いに市場競争力があり、 Muslim Travel Indexで2016年最もムスリムに適した観光地に選ばれている。

トルコは、男女別プールの用意、ハラル食品提供およびアルコールの禁止を実施してハラル観光サービスを増やす努力をしており、トルコ沿岸部の多くのホテルがすでにムスリムファミリーを数多く受け入れている。

GCC(Gulf Cooperation Council:ガルフ湾岸地域)・アルジェリア・チュニジアなど北アフリカの旅行者には、地理的にも近く、ムスリムの多い国で、宗教的遺産や歴史的記念物も多くハラルフードも手に入りやすいトルコが人気となっている。

Blajajには美しい自然とイスラム教風の建築があり、ムスリムの村のようである
写真:Pixabai

トルコはハラルツーリズム観光客にとって、マレーシア・ドバイ・インドネシアに次いで4番目に人気のある観光地だ。

トルコはムスリムフレンドリーなリゾート地の数を倍増させることで1位を目指している。

またヨーロッパにもイギリスのようなムスリム向け観光地がある。ヨーロッパでは世界一美味しいハラル食品が食べられるので、ムスリムがホームシックを感じることなく様々な選択肢を発見することができる観光地になっている。

ヨーロッパの良い点は、陸続きなので楽に国を行き来できるところだが、中にはムスリム旅行者に対してあまり理解がない地域もあり、特にヒジャブ(ベール)をつけている女性にとってはこれが懸念事項となる場合がある。

ブルガリアのソフィアには、1,606か所のモスクと1,700店舗のハラルレストランがあり、アバヤ・ヒジャブ・ニカブといったムスリムの服装を普通に見かけることができる。自然も美しく、イスラムとオスマン帝国の記念物もある。ブルガリアは5世紀近くもオスマン帝国の支配下にあった。

ボスニア・ヘルツェゴビナは、イスラム・オスマン帝国・オーストリア帝国の遺産とUNESCO世界遺産があり、また美しい自然とイスラム遺産が残りムスリムの村のような外観のBlagaj村も見所となっていて、ヨーロッパで最も人気のある観光地である。

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